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【実施レポ】藤井一興ピアノ研究セミナーvol.7バッハ平均律・ショパンエチュード全曲シリーズ調性による色彩とファンタジー5(藤井一興先生)

日時 2018年11月30日(金)10:30-12:30
会場 カワイ表参道コンサートサロンパウゼ

ショパンが敬愛していたバッハをどのように取り入れているのか、ショパンの練習曲とバッハ平均律の同じ調の作品を分析していく藤井一興先生のセミナーシリーズ「調性による色彩とファンタジー」、第5回がカワイ表参道にて行われました。

●宿命を克服するヘ短調
まず今回は平均律2巻のヘ短調プレリュードBWV881からお話が始まりました。テーマを弾きながら藤井先生が「なんて美しい休符なんでしょう」とお話しされます。美しい休符! f mollのうちひしがれた気持ちから、As Durになり気持ちが和らぎ、だんだん不安になる様子、倚音の解決に情感を込めるなど、ひとつひとつの音符が感情を細かく表していることが明確にわかります。続くヘ短調のフーガ。完全5度、減7度の下降など、音程がつくりだす印象をお話しされ、モティーフで和音を変えて遊んでいく様子を弾きながら説明くださいました。複雑なはずのフーガが立体的にすっきりと、ストーリーをもって見えてきます。途中、56小節目のリズムを「情熱的」と形容され、このころは熱い気持ちで神をたたえていたのだなと感じました。

続くショパンのエチュード25-2。ここでは、「真珠の粒」と「ビロード」の2種類のタッチで実演してくださいました。真珠の粒のほうはレガートとは若干違う粒立ちのいい音で、鍵盤の深さ10ミリのうち8.5ミリから9ミリのところで弾き、鍵盤から指を離すスピードをそろえるのがコツとのこと。ビロードは指の肉付きのいいところを接点にして鍵盤に手が吸い付くようなレガート。この美しいタッチで流れるように弾かれるエチュードはあまりにも美しく、もはや勉強というより「なんて美しい...」とリサイタルを聴いているような気分に。こうして実際に藤井先生の美しい音に浸るのが、なによりも貴重な時間です。

●神をたたえるヘ長調
平均律のヘ長調、BWV880は、タイで音を長く長く伸ばすタイの修行のような曲ですが、それを藤井先生はパイプオルガンのような響きとお話しされました。「オルガンのように音を伸ばすには、よく力を抜くことです」と実演されるその音が、長く響いてまるで本当にオルガンのようです。ピアノでこのような表現ができるということをまず聴いてイメージしておくのは大切と感じました。

続くヘ長調のフーガは16分の6拍子という珍しい拍子ですが、2拍子にとるところは8分の6拍子と共通しており、十字架のモティーフが使われています。「神をたたえる生き生きとした曲ですね」と藤井先生。途中、32分音符で細かい譜割りがでてきます。これを「お客様にわからないように、ちょっとだけ音の間隔を広げます」という秘密も教えて頂きました。「あわてないで神をたたえるということですね」。いまの時代はたとえばポピュラーだったらラブソングが多いですけれども、バッハの時代は思いをぶつける相手は神だったのだなとお話を聞きながら改めて思い出しました。気持ちの高ぶり、悲しい気持ちなどをぶつける相手はすべて神であるという考えでつくられている音楽なのです。

続くヘ長調のショパンエチュード。かなりの超絶技巧を要求される曲で、9小節目からの細かいトリルを実演してくださったときには、あまりの細やかですばやい動きに目が点になりました。「4232か、3232か。4の指の音色のほうがエレガントなのですが、3のほうが動きは速いので、どちらを使えるかですね。3を使う場合は、吸い付くように寝かせて」といった具体的な指使いの選択のお話しは実に参考になります。ふにゃふにゃした日本人の生徒の手でこのエチュードを弾かせるのは先生も大変にご苦労があったとか。

●ピアノのエクササイズ
前回に続いて、「ピアノのエクササイズ 48の白鍵盤の練習と12のレクリエーションより」(アンリエット・ピュイグ=ロジェ著、音楽之友社)についてのお話しもありました。これは子どもに美しい音色で指の独立を勉強してほしいという考えでピュイグ=ロジェ先生が書いて下さったものです。いつも「耳を育てる、耳を養う、音色の美しさを求める、そのための指のお稽古」とお話しされていたそうでした。今回は指のくぐり、かえ指、2で軸足を作るなどのエチュードについて触れていました。2の指の軸足などは、今日のショパンエチュードでも出てきたお話で、導入からそこまで見渡し、つながっている教育をピュイグ=ロジェ先生がされていたことがうかがえます。

今回も、つい「お勉強」になりがちな平均律とショパンエチュードの美しさを存分に味わいながら、楽譜の読み取り、どう弾くべきかという具体的な方法について間近に聴ける、宝物のような時間となりました。

なお、先生は今回、ショパンはエキエル版、そしてバッハについてはクルチ版を持参。内容については「よく研究されています。フランス語や英語で書かれた解説の部分を読んで、それを自分なりに参考にしています」とのことでした。

藤井先生と三輪昌代先生による課題曲セミナーは4月19日(金)
藤井先生の「色彩とファンタジー」セミナー第6回は、5月24日(金)の予定です。 なお、このセミナーを録画したDVDがピティナ表参道スマイルステーションから販売予定です。


◆メールアドレス:olivier.messiaen1908-1992@jcom.home.ne.jp
◆電話:090-5309-2076

藤井 一興(ピアニスト)
ピアノを安川加壽子、井上二葉、辛島輝治、萩原智子、作曲を長谷川良夫、南弘明の各氏に師事。東京芸術大学 3 年在学中、フランス政府給費留学生として渡仏。パリ・コンセルヴァトワールにて作曲科、ピアノ伴奏科ともに一等賞で卒業。パリ、エコール・ノルマルにてピアノ科を高等演奏家資格第一位で卒業。その間、作曲をオリヴィエ・メシアン、ピアノをイヴォンヌ・ロリオ、マリア・クルチォ、ピアノ伴奏をアンリエット・ピュイグ=ロジェの各氏に師事。

1976年 オリヴィエ・メシアン国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
1979年 パリのブラジル・ピアノ曲コンクール第 1 位
1980年 クロード・カーン国際コンクール第 1 位
    モンツァ"リサ・サラ・ガロ"国際コンクール第 1 位
    第1回日本国際ピアノ・コンクール第 4 位( 1 位と 3 位なし)
1981年 マリア・カナルス国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
    及びスペイン音楽賞
    サンジェルマン・アン・レイエ市
    現代音楽国際ピアノ・コンクール第 1 位
1982年 パロマ・オシェア サンタンデール国際ピアノコンクール入賞
    第 3 回グローバル音楽奨励賞
    第 10 回京都音楽賞実践部門賞

世界各地、日本国内にてリサイタル、室内楽、コンチェルトの他、フランス国営放送局を始めとするヨーロッパ各地の放送局や日本のNHK等で多くの録音、録画など幅広い活動を行っている。 レコード・CDではメシアンのラ・フォヴェットゥ・デ・ジャルダンやイゴール・マルケヴィッチ作品集、武満徹作品集などを続々とリリース。また、作曲家としても、フランス文化省から委嘱を受け、その作品が演奏会や国際フェスティバルで演奏・録音されている。その他、世界初のフォーレのピアノ全集の校訂を担当し、 1 - 5 巻(全 5 巻完結)を春秋社より出版している。
現在、東邦音楽大学大学院大学教授、東邦音楽総合芸術研究所教授、桐朋学園大学特任教授、東京芸術大学講師。

オフィシャルサイト

山本美芽
やまもと・みめ◎音楽ライター、ピアノ教本研究家。東京学芸大学大学院教育学研究科音楽教育専攻修了。中学校(音楽)、養護学校にて教諭と勤務したのち、執筆活動をはじめる。ピアノ指導者としても大学在学中から現在までレッスンを行う。「ムジカノーヴァ」「ジャズジャパン」等の音楽専門誌にて、国内外の一流アーティストに多数取材。「もっと知りたいピアノ教本」(大半を執筆、音楽之友社)「21世紀へのチェルニー」(単著、ショパン)などを執筆、ピアノ教本についての研究をライフワークとして続ける。中村菊子「レッスンのハンドブック」の中で一部を取材執筆、呉暁「練習しないで上達する」において文章作成などを担当し、多くのピアノ教本の著者・訳者に直接取材した経験を持つ。  2006年―2010年の間、夫の転勤のためアメリカ・カリフォルニア州在住。カリフォルニア州立シエラカレッジにて単位取得。アメリカのピアノ教本事情を研究。帰国後、2013年より著書「自分の音、聴いてる?」(春秋社)をテーマにしたセミナー、また音楽指導者のためのライティングセミナーを全国各地で行う。音楽教育学の知識と、音楽ライターとしてプロの音楽家・教育者との膨大なインタビュー経験、自分自身のピアノ指導・子育て経験、ピアノ学習、全国のピアノ指導者との密接な交流から得た現場発の問題点など、理論と実践を融合しながらピアノ教育が進むべき道を先導している。  2012年よりピアノを多喜靖美氏に師事。室内楽を多喜靖美、松本裕子の両氏に師事。2015年より「ピアノ教本、かしこく選ぼう」セミナーを全国で行う。あわせて指導者向けの「ライティングセミナー」、参加者が実際に弾き合いながら学ぶ「ひきあいセミナー」なども開催中。オフィシャルサイト http://www.mimeyama.com
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