ごあいさつ
出演者の皆さま、表参道秋季ステップへようこそ!
7月終わり。ポーランドのショパン国際音楽祭にリサイタルに行きました。プログラムに入れたバラード第4番とワルツ作品64-2の2曲が、同じ女性に献呈されていることに気がついたのです。ナタニエル・ロスチャイルド男爵夫人――高貴な美しいマダムだったに違いありません。なんて羨ましい!この2曲をショパンから献呈されるなんて。
8月の初め。そこはパリのオルセー美術館。奥まった展示室に、ひっそりと掛けられた小さな肖像画が目にとまりました。黒とシルバーのドレス姿のマダム――それこそは、ロスチャイルド男爵夫人その人でした。19世紀からさらに100年巻き戻したような古めかしさ。やや陰鬱な表情。少しも美しくない人。それでも私は、彼女が奏でたであろうバラードとワルツの響きを絵に重ね、やっと出会えた嬉しさで胸がいっぱいになったのでした。
楠原 祥子Shoko Kusuhara
(当日のプログラムより)