ご挨拶
ピアノは鍵盤さえ下げれば音は出ますが、同時に様々なことを行わ
ないとならない大変大きな課題を、こちらに提示する楽器と言える
でしょう。
しかし、ピアノから湧き上がる響きに耳を澄まし試行錯誤を繰り返す
事で、作品の持つ表現の可能性が体感でき、表現の新しいアイデアが
創出されるという事をピアニストからしばしば伺います。
19世紀ロマン派時代に現代の形に変化したピアノは、製造される地域
の嗜好や、製作者と音楽家との会話の中で、様々な個性のベクトルを
持つ楽器に育まれました。
昨今、多様性という言葉が話題になりますが、現代に継承されたピアノ
は正に、深層的多様性を含んだ楽器と言えるでしょう。
出逢い、知識、経験などの複数のインプットにより形成されるものが
深層的多様性ですから、インプットが決して一様では無いヨーロッパの
ピアノ製造は、その時代の中で育まれた多様性を提示してくれます。
新たな表現の可能性を、このステップのベヒシュタインの響きとの
出会いから探っていただければ幸甚です。
加藤 正人
(当日のプログラムより)